すみだ北斎美術館

総武線に乗っている時に、もう既に日も暮れて真っ暗なはずなのに異様なオーラを放つ建築物があった。
わずかに照明の光が漏れていて、独特の形態を映し出す。
そのうちに電車が動き出し、すぐに頭の建築インデックスが作動するのに気がつく。
『すみだ』ってこんな所にあるのか・・・・。
自分の建築センサーもなかなかやるなと自画自賛して、読みかけの「首折り男のための協奏曲」を再び読み始めた。
こんなに近くなら、すぐに行けると思い直して、明日の予定に無理やり組み込む。

次の日の天気は、予想以上に晴れていた。
建築を見る上で天気の影響は多大だ。良くも悪くも印象が変わってしまう。
でも『すみだ』はきっと雨だとしてもその佇まいは美しいものになることは容易に想像できる。
妹島事務所や西沢事務所は膨大なスタディを重ねることは建築界では有名な話だが、どんなにスタディを重ねていても、そこから選び出される案はたった一つで、それが妹島作品であり西沢作品になる。

西沢さんはもう10年以上自分で案を出さないらしい。
それが何を意味するかは、ここでは書かないが、妹島さんはもっと前からそうだろう。
ちなみにジャン・ヌーヴェルはスケッチすら書かないらしい。
スタッフへの指示は全て言葉でするそうだ。
建築家の仕事とはそういうものだ。

日曜の午後から『すみだ』の佇まいに目頭を熱くする中年男の戯言。
僕はもう一人の自分に問いかける。

「ボス、本当にこの案でいいんですか?」