Photo:Brain by dierk schaefer
脳の神経細胞はそれぞれがシナプスという構造で結合されている。最近までシナプスの基本的な構造が僕自身わかっていなかった。
結合というとがっちりくっついているイメージだが、実際はすき間が空いていて
細胞内の伝達機構と異なる方法で情報を伝達している。
筋肉や網膜の情報など瞬時に、しかも確実に情報を伝えなければならない場合は
電気シナプスと呼ばれていて、脳細胞のそれとは区別されている。
ちなみに脳細胞の多くは化学シナプスだが、電気シナプスは海馬などの重要な記憶を受け持つ部分にも見つかっているらしい。
まるで、コンピュータの接続規格のよう。
さて、建築にも海馬並に記憶しておかなければならない知識はたくさん必要なんですが
僕の脳は化学シナプスにしか容量は残っていないので、ひたすら弱く、しかも低速な結合を
ブルーレイ並に大容量にするため、せっせとカルシウムイオンを放出しているのです。
事務所にはそのための書籍があるのですが、気に入った本はやはり何度も開きたくなります。
そこで見つけた一文に僕のシナプスからドッとイオンが放出される感じがしました。
それは、中村好文著『続・住宅巡礼』にてシーランチの章。
「偉大な建築ぶつの実感を得るための最上の方法は、その建物の中で目を覚ますことである。」
とチャールズ・ムーアは語っていることを示す一節。
前回の「記憶」というエントリーの中でも書いた建築行脚の旅でも
そうやって体に刻み込むように見た建築が幾つもあります。
逆に言えば、建築空間を理解するということはそう簡単なことではないということです。
自分の体を使って、建築に浸ってしまわないと本質は理解できない。
写真を見ただけで、或いは撮っただけでは見たことにはならない。
そう自分に言い聞かせながら歩きまわった思いがあります。
そして、それは建築に仕事として関わる人だけでなく、ごく一般的に生活している人たちにも必要な感覚だと思うし、
それだけで、見えてくるものが違うと思います。建築は物質を集積した装置ではなく、人間の体に密接に関わる環境だと思います。
それを改めて思い出させてくれた気がしました。